ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

獣人の街 8

森へと移動したシアン達だったが、浜からここまでの間に騒ぎを聞き付けたイマクーティ達も何が起こるのかと集まり、ずいぶんと見物客が増えている。

「さて、君の弓が飾りじゃないとゆうなら、簡単な賭けをしよう。君はその弓で矢を射るだけだ。君が勝ったら何でも一つ君の言うことを聞く、ただ俺達が勝ったら君が着ている服以外の荷物を全部、もちろん弓と矢も含めてだが、それを置いていってもらう」

「賭けの中身次第だな」

シアンは喧嘩を買ったようにはなったが冷静で、相手の話を簡単に受け入れる気はなかった。

その様子が気に食わないのか、数匹の雄が野次を飛ばし、周囲のイマクーティ達を煽っている。

「森の奥から友人が君に向かって走って来る、君はその友人に矢を射ればいい。もちろん矢じりは無しだ。森を抜けるまでに四肢それぞれと頭の五箇所全てに矢が当たれば君の勝ち。矢は六本有る、俺達の勝ちはそうだな…君に自信があるとゆうなら君の勝ち以外全て俺達の勝ちでも構わないんだが、それではさすがに不公平だろう? 君が決めるといい」

相手はシアンに譲歩したように振る舞っているが、その実、シアンが弱気な数を指定したらその段階で笑い者にしてやろうと考えていたし、六本の矢では五箇所それぞれを射る事など出来るはずが無いとたかをくくっている。

そしてシアンがもし見栄をはれば自分達の勝ちの可能性が上がるうえ、シアンが負けた時にはそれもまた笑い者にする腹積もりだった。

「矢、見せて」

シアンが言うと矢筒が数人の手を経由して届けられる。

聞いた通り、矢の先には何も付いていない、シアンはそれぞれの矢を確認して頷いた。

「私の勝ち以外は…って言いたいところだけど、折角譲ってくれたんだ、一つだけ下げてもらおうか」

「五箇所当たれば君の勝ち、三箇所以下なら俺達の勝ち。…四箇所ならどちらの勝ちもない、それでいいかい?」

「あぁ。ただ、当たったかどうかはどうやって判断するんだ?」

「これを使う」

そう言って差し出されたのは染料のような黒い液体で、矢の先につけると厚く纏わり付いてくる。

「それが当たれば毛にはっきりと色が残る。文句は無いかな?」

「まぁいいだろ。相手は?」

シアンが尋ねるとそれまで喋っていた雄の後ろから、顔や身体に多くの古い傷が残る雄が姿を見せた。

その雄は血の気が多いのか、シアンに食いかかりそうな程に近付くと牙を剥き出して唸り声をあげる。

しばらく威圧を続けていたが、周りのイマクーティ達に囃され一際低い唸りを残し森の奥へと歩いていく。

「さぁ始めよう!」

その声にシアンは矢をつがえるが、染料をつけた矢の先が思っていたよりも重いかもしれないな、と一本目は捨てることにして楽に構えた。

シアンの後ろを囲むようにイマクーティ達が並び、皆騒いではいるが、森へと入った雄がいつ走り出すのかと、そこから目を離すことはない。

普段なら二本の脚でかけるイマクーティだが、森へと入った雄は両手を地面につき、身体を屈める。

五秒、十秒、シアンを囲んでいるイマクーティ達の声が大きくなる、と次の瞬間、雄はスタートをきっていた。

シアンも反射的に矢の先をあげ、その動きを先読みするように一本目の矢を放つ。

「重い」

シアンは呟いたが矢は右の脚に当たり、それを見たシアンは二本目と三本目の矢を続けざまに放った。