ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

ある魔術師の記憶 21

魔術師は家に向かう前に水鏡に寄り、何故かその水鏡の魔術師をともなって足早に街の中を進んでいく。

街の水鏡は一人だけで僕も顔だけは知っているけれど、二人はどうやら顔見知りらしかった。

言葉を交わすことは殆どないものの、あまり人を寄せつけない魔術師を相手にしても穏やかな表情を崩さない水鏡がいるだけで周りに与える印象がかわるらしい、と感じたのだけれど、魔術師が水鏡を伴ったのにはもう一つ理由があったのだとゆうことは家について間もなく解った。

水鏡の事はもちろん家族も知っていて、彼女が間に入り魔術師の身元を保証したことで、隣街の工房で世話になるとゆう話は、予想とは違い、すんなりと受け入れられたのだった。

もちろん魔術師自身も、僕に対して見せる態度とは違い、感情の起伏も最小限で、始終別人のように装ってはいたのだけれど…。

 

話が早々に終わり、荷物をまとめて戻ると、何故か親の顔はつい先ほどよりもやや曇っていた。

ただ、魔術師の方は変わらない様子で、水鏡をみても特段変わった様子は見られなかった。

「…あまり、ご迷惑をおかけしないようにね」

僕だけが家族と一緒にいる時間はなく、余計なことを聞かれも言われもしなかったことに、心のうちでは安心と一緒に一層増えたもやもやとしたものを抱え、それに意識を占められていた僕はその言葉をそのままの意味で受け取ったのだけれど、それだけではなかったとゆうことを知るのはずいぶんと経ってからのことだった…。

 

その帰路、"数をこなせ"と竜馬を呼び寄せるところから始まって、魔術師はこちらの力をはかろうとしているらしかった。

しかし、僕はまだ魔術師の力を信用しきれていなくて、先生の工房でお世話になっていた時と比べたら"大人と子供"と言われるだろう魔術しか使えず、それは魔術師の工房で寝起きするようになってもなかなか変わらなかったけれど、時には魔術で時には拳で僕を吹っ飛ばすほどに苛立ち、いやな顔をして口悪く罵りながらも、頭の隅の隅では気にかけてくれてはいるらしいのを感じながら、しばらく過ごすうちに少しずつ魔力を表に出すことも出来るようになった。

「それだけの力があるのに、思い通りにならないのはもどかしいでしょうね」

ある日ぼそっと魔術師が口にしたその言葉は、一人で使えないことは別として、元々の力を認めてくれたような言い回しではあったのだけれど、魔術師の顔には、自身と僕の間に深い溝を刻んだような、はっきりと感じられる陰りがあった。