ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

ある魔術師の記憶 45

「彼女に初めに気がついた人が一番近かった彼の家に運び込んだそうです…」

「…驚きました、突然のことでしたから…。私は、水の力はあまり使えません…。街の方、なら…私のところには来なかったでしょう…。ネイ…あの子の名です…ネイのご家族とは、話したことはありました…。ですが、彼女のことはほとど知りませんでしたし、私は人の面倒を見られるほど器用ではありません…。どうしたらいいのかと思っていましたが、街の方々も、力を貸してくれて…ゆっくりですが無事に回復して…。ただ…口の中も怪我をしていて、はじめは、話せずにいて…。話せないまま、いろんな事を問われるのが怖かったのか、怯えていました…。…私は、普段…あまり、口をききません。…そのせいか私のことは平気だったようで、街の人達の姿を見ると私の後ろに隠れるようにして、側から離れなくなってしまって…結局口がきけるようになるまで私のところに…。後から聞いた話では、あの時流されたのは自分だけで、橋はまだ崩れていなかった、とゆうことでしたが、ご家族についてその後の消息は何も…」

「その頃にはすでにこちらから仕事をお願いしていましたから、私も何度か伺っていて、あの子がいる前でも仕事の話を…。そのうちに、親の仕事を見ていたからでしょうけれど、私の仕事にも興味を持ったらしいのですが、こちらで引き取れる訳もなく…」

「…家族と連絡がつくまでは、とゆうことで預かっているうちに、どうにも懐かれてしまって、いつの間にか家のことを手伝うように…。そのうちに、街へ出る用も引き受けてくれる様になって、こちらに出入りをしはじめて、いつの間にか、見よう見まねで細工を…。…買い物や何かでの街と行き来をしたり、細々したことの手伝いは、私としても助かっています。…それでも、いつまでもこのままとゆう訳にはいきません。自分の為に、自分で選んで細工師になるなら、多少の無理には何も言いません…。ですが、あの子はどうにも私の為に細工師を目指しているようで、そのことに自覚はあるのでしょうし、何度もその必要はないのだと伝えています…。その度にあんなふうに…。私が自分の生き易さを手放せずにずるずると…それがこの有様です…。あの子にも悪いことをしました…」

「何年も一緒に暮らせば、理屈だけでは片付けられないものも出てくるでしょう。それはお互いに、レリオさんからだけでなく、彼女の方にもあるのではないですか…?」

「…。…もし、そうなのだとしても、それで良い、とゆうことには…。あの子にとっては一生の事ですから…」

人とのやり取りは苦手で、普段はあまり口をきかないとゆうレリオさんだったけれど、それだけ思いが強いのか、ゆっくりではあったが、溢れて来るかのように言葉を繋いでいた。

 

ここの…工房の二人はシギーさんに拾われて、二人ともシギーさんに、そしてお互いに、たぶん魔術師はフィユリさんにも、強い思い入れがあるのだろうと思う。

僕が、家族以外の…先生や魔術師に対して持っている感情はうまく言葉には出来なくて、はたから見たら同じように見えているのかもしれないけれど、きっと二人が持っているのとは違うものだ。

 

魔力の嵐に魔獣、天候や季節と人の流れの些細な掛け違い、野盗に事故…病や老い以外だって人が死ぬことは珍しくはなく、命が助かってもそれまで一緒にいた誰かとちりじりになることもある。

身を寄せ合って、拾われて…そうして出来た血の繋がらない家族も多くあるはずで、その中で育つ子供だって少なくないだろうけれど、そこで生まれる感情…それは僕では解らない。

 

レリオさんの途切れた言葉のあとで、僕はそんなことを考えていた。