ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

ある魔術師の記憶 43

そんな少女の様子に、とゆう事なのか、レリオさんは困ったような顔だけれど安心した様子を見せ、小さなため息をついたあとで微笑みながら再び口を開いた。

「では、ここではずっと魔術を…?」

「はい、怒鳴られたり蹴飛ばされたり…そんなことばかりでしたけれど」

いつもなら答えにくい、もっと言うならば答えたくないとさえ思うだろう質問だと思うのだけれど、この時はなぜか抵抗なく答えていた。

「…。…あの人、は、貴方をそばに置いていた…それだけで、すごい事です…。いずれ…私の仕事は、なくなりますね…。私も、これからのこと…考えなければいけません…」

今までも、そしてこれからも、僕が魔術師と一緒に、魔術師を手伝って仕事をすることはありえない事だと思うのだけれど、どうやらレリオさんは自分に回って来ている仕事を僕が受けるようになるだろうと考えているらしく、そんなふうに言って、穏やかに目を細めた。

レリオさんの言葉を受け、なんと答えたらいいのだろうか、と悩み、なかなか口を開けずにいると、一度は和らいだ少女の視線がまたきつくなっていく。

が、その直後に勢いよく立ち上がった少女の口からでた言葉は、僕や細工師が居ることも忘れたかように激しく、ひとかけらも残さずそのすべてが、レリオさんに向けられたものだった。

「なんでそんなこと言うの…!? レリオが苦手なことは全部私がやる! 今までだってそうだったでしょう!? レリオは魔術師だもん! 魔術師としての腕は確かだもん!! 街の外に居たって魔術の仕事くらい私が見つける! 小鬼と比べたら全然知識は足りないし、腕だってまだまだだけど、それでもそんじょそこらの細工師に負けないだけの物は作れるわ…! 街の人たちに子供がつくったものなんて、なんて、絶対言わせない!! その為ならいくらでも頑張るもの…! これまでだって…これからだって、気持ちは誰にも負けないし、出来ないことを出来るまでやることぐらいなんでもないんだからっ!!」

周囲に広がるのは以前見たのと同じ、細い細い糸で編まれたレースや積もることのない雪のような、壊れやすく淡く消えてしまいそうな波なのだけれど、その繊細さとうらはらに、今、この瞬間の気持ちが現れたのか、すべてを絡めとるように大きくうねり、それまでから比べたらひとまわりもふたまわりも大きくなって尚拡がり続けているようだった。

「…だからこそ、です…。あなたに無理…続けさせられない…させては、いけない…」

レリオさんの言葉に、少女の波は突然脱力したかのように弱々しく揺らぎ、端から刷毛ではらったように薄くなる。

そして突然こちらに背を向けると走りだし、留める間もなく外へと駆け出していく。

一瞬だけ見えたその横顔、瞳からは大粒の涙が溢れているようだった。