ある魔術師の記憶 42
自分でも何がきっかけで魔術師があのような行動に出たのかが解らないまま、事実を羅列するように言葉をつないでいたのだけれど、聞いている側はより解らないとゆう事なのか、地下にやって来てすぐに魔術師を包み込むように気配を広げ、揺らぐ球体のような状態でこちらの話を聞いていた精霊は『どうしたのかしらね…』と呟くように言って黙り込む。
そのうちに人の首から上だけを模して『困った子ねぇ…』と眉を寄せ、ため息をつくようにしてこちらを向いた。
"ここのところの様子を見ていて、二人きりでも無理はしないと思ったのだけれど、甘かったわ…"
「すみません」
"貴方が謝ることじゃない。何か、貴方に言いたいことがあったのでしょうけれど、最初から言葉にすることだって出来たはずだもの…この子が悪いのよ"
一度言葉を切った後で、フィユリさんは『約束の日からは遅れたけれど、さっきレリオ達が来たの』と言って、細工師と一緒に二人を相手に上でいろいろと話をしてきた、とそんな意味合いの言葉を続けた。
"あの子との話はまだしばらくかかるとは思うけれど、この子が今すぐ目を覚ますわけでもないし…どうしたものかしら…"
「体調がすぐれないから、と正直に言ってしまってはいけないんですか?」
"それを言うのは構わないけれど、彼は直接話したいみたいなのよ。…この状態じゃ少なくとも今日は無理だし、また来てもらうしか無いかしらね"
「とりあえず、一度様子を見てきます」
僕は蜜玉の入った小瓶をベッドの脇の棚に置き、微動だにせず、まるで人形のようにみえる魔術師の顔をそっと覗き込んでから、その場にとどまるつもりらしいフィユリさんに軽くお辞儀をして階段へと向かった。
一階が近付き聞こえてきたのは少女と細工師の声。
レリオさんが話している様子はなく、二人の声だけが交互に聞こえて来る。
「失礼します」
声をかけながら部屋へと入るとレリオさんはかすかに挨拶を返してくれたけれど、女の子の方はきっとこちらを睨むような視線の後で再び細工師との話を始めた。
魔道具や魔動人形に使われるからくりや、外装の形、魔石の効率的な配置など、内容は多岐に及んでいるようだったけれど、細かなことは僕には解らず、話を邪魔することの無いようにそっと空いた椅子に座り、三人の様子を眺めていた。
二人の話が一段落したところで、レリオさんが『…貴方もこうゆうもの…作るのですか?』と壁に掛かった部品や外装などをまとめて指さしながら、やはりやや掠れたような声で言いながらこちらに顔を向ける。
「いえ、細工物は全く。基本的なことは教えていただきましたが、細かなことはこうして聞いていてもさっぱりです」
正直に答えると、レリオさんに続いてこちらに向いた少女の、さっきと同じように睨むよう強い視線が、ふと床に落ち、ゆっくりと和らいでいくのが見て取れた。